進行性の難病を患いながらも、今を精いっぱい生きる小澤綾子さんの生き様です。

小澤さんが体の異変に気付いたのは、小学4年生の時でした。

学年が上がるにつれて、同級生たちは走るのがどんどん速くなっていく一方で、小澤さんは逆に遅くなっていきました。

小学6年になる頃には長距離を走ることが困難になり、中学に上がる頃にはとうとう百メートルすら走れなくなりました。

しかし、両親も先生たちも深刻には受け止めてくれず、同級生にからかわれても誰にも打ち明けられない、辛さをこらえる日々を過ごしました。

診察を受けた病院の先生からは「個人差」と診断され、病院の先生にすら自分の症状をわかってもらえない悔しさに一人涙を流しました。

こらえ続けた違和感の正体がようやく判明したのは、20歳の頃。

手すりなしで階段を上がれなくなると、私は覚悟を決めて、大学病院に行きたいと両親に伝えました。

再検査で告げられたのは進行性の難病「筋ジストロフィー」という病名でした。

一時は自分の違和感が証明されたことにホッとしましたが、「具体的な治療法も薬もありません。筋力はどんそん衰えていき、10年後に車いす、最終的には寝たきりになるでしょう。」と告げられると、私の心は凍ったように冷たくなりました。

将来への不安、思い描いていた夢をあきらめなければいけない現実に、もはや自分は何のために生きているのかわからなくなってしまったのです。

それから、3年間ほどは何も手につかず、ぼーっとした日々を送りました。

転記になったのは、リハビリの先生との出逢いでした。

当初は「どうせ病気を治せないのに」などと斜に構えていた小澤さんでしたが、病院に行くたびに、同じ病を抱えながらも世間で活躍する人の話や、先生の自身の体験談を聞かせてくれて、小澤さんをなんとか励まそうとする姿に少しずつ信頼が芽生えました。

とりわけ、先生の言葉の中で私の心を大きく変えてくれたのは、次のような一言でした。

「そんなに下を向いていてばかり、暗く生きていたら、あんたの周りには誰もいなくなってしまうよ。一人寂しく死ぬのかい?」

その言葉にハッとさせられた私は、「なんとか先生を見返したい。車いすになる前にやりたいことを全部やってやろう!」と決意。

海外旅行を皮切りに、語学留学やダイビングのライセンス取得などやりたいと思っていたことに挑戦し始めました。

挑戦の度に先生に報告に行きましたが、「もっと本物に出逢いなさい」「もっと将来を見据えて深く行動しなさい」と、なかなか褒めてくれません。

それでも挑戦を続ける中で、いつしか心は前向きになっていきました。

バンドを組んでいた高校時代を思い出し、再び歌を歌い始めたのも挑戦の一環でした。

しかし思ったほどの充実感は得られず、なんとなく歌っている状況から抜け出すことができません。

ちょうどそんな時でした。

同じ病気の人が集うウェブ上のコミュニティサイトで、松尾栄次さんと出逢ったのは。

栄次さんは小澤さんより病気が進行しており、30年も病院で寝たきりにもかかわらず、「僕には時間が足りないんだ」といつも明るいメールをくれるのです。

ほどなくして、栄次さんから「僕が作った歌を歌って、同じ病気の人を元気にしてほしい」とメッセージが届きました。

しかしメッセージをもらって2か月後に、栄次さんは帰らぬ人となりました。

栄次さんが亡くなってしまったことが悲しく、同じ病気の小澤さんもいつかそうなるという恐怖で暗く沈んでいましたが、「いつまでもくよくよしていてどうする。栄次さんが託してくれた夢をかなえられるのは自分自身だ」と言い聞かせて、自分のことを語りつつ、栄次さんが作曲した『嬉し涙が止まらない』を歌うようになりました。

不思議なことに、栄次さんの歌を歌うようになってから、私の音楽活動は世間から広く注目を集め始め、昨年は、北は北海道、南は福岡と全国各地から依頼を受け、歌いに行きました。

・・・いまは生きる目的も夢もあるから、何があっても生きていける。すべての人に感謝して。嬉し涙が止まらない・・・

栄次さんの歌で小澤さんが大好きな一節です。

難病の宣告を受け、下を向いていた小澤さんが、いま前向きに、幸せに生きていけるのも、リハビリの先生や栄次さん、闘病を支えてくれる家族との出逢いがあったからに他なりません。

また、筋ジストロフィーは進行性の病気の為、いまできていることも、1年後できるとは限りません。

診断されて15年間、この難病と向き合う中で小澤さんが一番学んだことは、人生は「いま」しかないということ。

そして、その「いま」をどれだけ本気で生きるかで人の幸せは決まるとうことです。

だから、同じ病気の方はもちろん、すべての人が生きる目的や夢を持って、「いま」を精いっぱい生きてほしい。

その思いを伝えるために、これからもすべての人に感謝して、小澤さんは、力の限り歌い続けています。

(参考文献:『致知』2017年4月号)

進行性の難病「筋ジストロフィー」を患うという逆境を乗り越える中で、多くの人に支えられていることを学び、そのことに感謝の気持ちを持つようになった小澤さん。

そんな小澤さんが語る、「いま」をどれだけ本気で生きるかで人の幸せは決まるという人生の極意は、私たちがぜひ学ばなければいけない教訓だと思います。