世の中の道具になれ
人間学を学ぶ月刊誌『致知』2016年10月号に掲載されていた話です。
その方の父親は、貧しい家庭に生まれ育ち、小学校を卒業すると瓦(かわら)工場で厳しい労働に明け暮れ、18歳からは10年以上軍隊に所属し、除隊して帰郷した後、村の有力者の協力を得て、青年学校を設立し、村の若者たちの教育に尽力しました。
しかし、30代で肺結核を患い、闘病の末に47歳の若さでこの世を去りました。
その方は父親に叱られたことは一度もありません。誰かの悪口を聞いた記憶もありませんでした。
その方の父親は自分の健康や損得よりも、まず他人のことを気にかける人でした。
生活が豊かでないのに、傷薬や文房具を仕入れては、村人に安い値段で売り、時に「貧しい人からはお金をいただくんじゃないぞ」と家族に言い含めるほどでした。
小学校を出たその方に、父親は一つの言葉を与えました。
「世の中の道具になれ」
その方は、「その後の人生で、どれだけこの言葉に救われ、励まされたことでしょうか」と述べています。
困ったとき、苦しい時、じっと噛みしめていると、いい人と巡り会い、いつしか道が開かれていったそうです。
「世の中の道具になれ」とは、世のため、人のために自分を活かすという「利他の心」を表す含蓄に富むとても善い言葉だと思います。