Wさんは、学校を出て航空会社に勤務した後に結婚退職して、1男1女に恵まれますが、28歳で出産した長女は2か月くらい経っても目で物を追わないため、大きな病院で調べてもらうと脳性麻痺だということがわかりました。

周りからは、そんな大変な子を育てられるわけがないから施設に預けるようにと言われましたが、Wさんはどうしても自分で育てたいと思いました。

長女が脳性麻痺の診断を受けた日に、長女を抱っこして、長男の手を引いて行ったのが、筋ジストロフィーの息子さんを育てた地元の女性の家でした。

その女性は、Wさんがわんわん泣いているのに「おめでとう、よかったね。ここからあんたのほんまもんの人生が始まるんだよ」と言いました。

「ほんんまもんの人生なんかいりません!」と泣き続けるWさんに、「私たち家族は、筋ジスの息子がいたおかげで、いまがあると思ってるんやで」と話してくれたのです。

当時の障碍児は養護学校にも行けず、病院か家で暮らすしかありませんでした。

そのご夫婦は、息子を絶対に手放さないと決意して、優秀な専門医をつけて、家庭教師をつけるために、介護をしながら必死で働いたそうです。

あいにくそのご子息は16歳で亡くなりましたが、その間に家業はどんどん盛り上がったそうです。

「あんたも絶対幸せになれる。頑張れるか?」と言われて、Wさんは「頑張ります」と答えるしかありませんでした。

そして、Wさんは、長女を何としても歩かせたいと思い、週3回リハビリに連れて行くようになります。

ところが、1年経ち、2年経つうちに症状はどんどん悪くなり、発作や肺炎を繰り返して月に1度は入院するようになってしまいます。

周りには精一杯明るく振る舞っていましたが、心の中では「幸せになると言われたのに、どんどん不幸になっていくやんか」と思っていました。

娘につきっきりで、3歳の息子はほったらかしです。

12月のある日、入院中の病院から、夜電話してみると「寒いよ、お母さん・・・」と言うので、慌ててタクシーで戻ったら、こたつに首まで潜り込んで震えていました。

「こんな時ぐらい家にいてやってよ」とご主人を責めたりもしました。

娘と息子の間で体は張り裂けそうでしたし、娘ももう十分苦しんだんだから、心臓を止めて楽にしてやってくださいってと思った時もありました。

冬の日、バスに乗ると「音刺激」で娘が発作を起こして泣き叫ぶので、バスに乗れず、粉雪の中、娘をおんぶして息子を抱いてバス停をいくつも歩いていた時です。

横の国道を大きなトラックが走っていて、「あ~、50センチ車道に入ったら、すべてが終わる」と思ったこともありました。

唯一本音を吐けたのが、筋ジスのご子息を育てた女性でしたが、いつ訪ねても「あんたが変わらなければあかんのやで」と言います。

Wさんはいつも周りの人に明るく振る舞っているのに「あんたが変わらなければあかん」と言われます。

娘さんを病院へ連れて行くために電車に乗っていた時のことです。

発作でいつ泣き出すかわからないので、いつもすぐ降りられるようにドアのところに立つようにしていました。

ある駅で電車が止まって、外を見たら、田んぼが緑のじゅうたんのように広がっていました。

その間の道を赤い車が走っていたのです。

Wさんは思わず「あの車の中には幸せな家族が乗っているんやろうね」とつぶやいていました。

Wさんは、その時初めて気がついたのです。

「あ、私は自分のことをめちゃくちゃ不幸と思ってるんやな」と。

いくら表面を取り繕っても、自分の本質は娘さんが生まれた瞬間から全く変わっていなかったことに気がつきました。

その時、Wさんは本気で「変わろう」と誓いました。

「娘が歩けないからって何が悪いの。歩けなくても、世界一幸せな子にしてやろう。夫も私が精一杯助けて、出世させてあげよう」と。

結果的に、息子さんは元気に成長し、ご主人は出世するなど、幸せを手にすることができたのです。

Wさんを叩きなおしてくれた筋ジスのご子息を育てた女性に「『あんたが変わらなければあかん』という言葉に支えられました」ってお礼を言ったら、「あれは私の言葉じゃないねん」と言われました。

その女性が筋ジスのご子息を抱えて泣いていた時に、先輩のお母さんから言われたそうです。

Wさんはいま、障害児のお母さんが相談に来るたびに「あんたが変わらなければあかんのよ」と伝えているそうです。

(参考;『致知』5月号)

「他人と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる」という言葉通りの話ですね。

自分が変われば、未来も変わるのです。

自分が変われば、周りも変わるのです。

現在の自分の境遇を他人のせいにしても、他人を変えることができない以上、何も改善しません。

そうではなくて、現在の境遇はすべて自分に原因があると考えることで、そうであれば今の自分を変えることで、未来の自分の境遇を改善することができるのです。