大きな家に住んで豊かな暮らしをしていたある女性がいます。

ところが、ご主人の経営する会社が倒産して家庭内の家具や電化製品は差し押さえられ、地方にある小さな一軒家に引っ越すことになってしまいます。

この夫婦を苦境から救ったのは幼い一人娘でした。

その子は引っ越した後、「家の中が全部見える」と言って無邪気に走り回ったり、勉強している姿をいつも母親が台所で見てくれていることを喜んだり、家族が川の字になって眠れると言ってはしゃいだり、倒産という出来事が嘘ではなかったかと思うくらい、小さな一軒家での生活を楽しんでいたのです。

過労のためか、ご主人は早くに亡くなってしまいますが、その女性が女手一つで子どもを育てる苦労を乗り越えられたのもまた、女の子の屈託のない笑顔でした。

一人娘が成長して大学進学が決まり、いよいよ上京するという時、その女性は娘にこれまでの出来事を振り返りながら静かに話しました。

「会社が倒産した時、本当はお父さんと二人、死んでしまいたいと思っていたの。

そんな時でも、いつもあなたが喜ぶ度に、お母さんも一つひとつ目が開かれていった。

それまでは贅沢な暮らしができることが幸せだと思っていたの。

しかし、そうではないことをあなたは私に教えてくれた。

いままで私が生きてこられたのは、あなたがいてくれたおかげです。」

そして「日本には清貧(せいひん)という言葉があるけれども、あなたにはどんな苦しくてもそこに素晴らしさを見つける力がある。

その力をこれからも伸ばしていきなさい」

という言葉を餞(はなむけ)に贈ります。

(引用:『致知』12月号より)

このお嬢さんは、幼心にも両親を元気づけようと明るく振舞っていたのではないかと思います。

そんなお嬢さんの姿に、この女性は、本当の幸せとは物質的な豊かさの中にではなく、目の前の小さなことに感謝できる精神的な豊かさの中にあることを教えられたのです。