あしなが育英会の元奨学生『下村元文部科学大臣』の話

病気や災害、自殺などで親を亡くした子どもや、親が重度後遺障害で働けない家庭の子どもを物心両面で支える民間非営利団体に、「あしなが育英会」という会があります。

国などからの補助金・助成金は受けず、すべて寄付金で運営されている団体です。

政治家として活躍している下村博文元文部科学大臣は「あしなが育英会」の元奨学生で、現在は「あしなが育英会」の副会長も務めています。

下村さんは、小学校3年生の時に群馬県内の農協職員であった父親を交通事故で亡くしました。

当時、32歳の母親が9歳の下村さんと5歳と1歳の弟を女手一つで育てました。

夜が明ける前から田畑を耕し、昼はパートで働き、家に帰ってくると真っ暗になるまで再び田畑で農作業をしました。

極貧生活の中で、手のひらを返すような世間の冷たさ、厳しさを味わう一方、下村さん一家に温かい手を差し伸べてくれた人たちもいました。

その時、下村さんは将来こういう人たちにご恩返しができる人間になりたいと思いました。

そして、小学生なりに真剣に考え、世の中をよくすることができるのは政治家ではないかと思い至ったそうです。

その思いをさらに強くしたのが、小学校5年生の時です。

下村さんが風邪をこじらせて何日か寝込んでいた際、いつもは厳しい母親が「何か欲しいものはない?」と聞いてくれたのです。

下村さんは家計に余裕がないことがわかっていたので、「いらない」と答えました。

しかし、母親が「それでも」というので、「本を読みたい」とお願いしました。

母親がその時買ってきてくれたのが偉人伝です。

野口英世や二宮尊徳、エジソンやリンカーンなど、十人ほどの偉人の物語が収められていて、下村さんはその本をボロボロになるまで何回も貪るように読みました。

その本に出てくる偉人たちは、必ずしも恵まれた環境で育ったわけではなく、貧困や病気、天災といった様々な困難を克服し、前向きにたくましく生き抜き、一つのことをあきらめずに突き詰めていった結果、歴史に名を残す人物になっていました。

偉人たちの生い立ちと下村さんの境遇が重なり合い、下村さんは小学生ながらに「自分は天に試されているのではないか」と感じたそうです。

人生における困難や苦労、挫折、壁というのは、その人がより大きな任務を果たすために天から与えられた試練である。

そう捉えれば、たいていのことは乗り越えていけるのではないだろうか。

もし下村さんの父親が交通事故で亡くなることなく、ずっと普通の生活を送っていたら、下村さんが政治家を志すこともなかったわけで、小学生の時に直面した逆境は下村さんにとって必要な試練であったと回想されています。

(引用;人間学を学ぶ月刊誌『致知』2016年10月号「二十代をどう生きるか」より)