何事にも囚(とら)われずに生きる
生きるとは、今を精一杯生きることです。
しかし、今に心を向けることは、容易なことではありません。
人間とは不思議なもので、心に次から次へと様々なことが浮かんできます。
過去に失敗したことが心に浮かんできては、「ああすればよかった、こうすればよかった。」と後悔の念に駆られ、
今日のお昼のことが心に浮かべば「何を食べようか」と悩み、
部長の機嫌が悪いと「どうしたんだろう。何かまずいことでもしたかな」と不安になり、
朝奥さんとケンカしたことを思い出しては「帰ったら、またケンカの続きが待っている」と暗い気分になります。
これは、心に浮かんだことに心が囚われてしまっている状態です。
そして、大切な今を後悔や悩み、不安などの気持ちで、無為に過ごしてしまうのです。
どうすればよいのでしょうか?
中村天風は、このような思いが心をよぎることはやむを得ないと言います。
ただし、その思いに心が囚われてしまったら駄目だと教えます。
そして、新幹線に乗って外の景色を眺めているときのことを例にして説明しています。
外の景色は、ただ眺めていればどんどん過ぎ去っていきます。
ただし、例えばある建物に心が奪われると、しばらくその建物だけを目で追います。
この景色と同じように、心に浮かぶことも浮かぶままにして流していけばよいのです。
特定のことに、心が囚(とら)われない、奪われないようにするのです。
このことを続けていくと、しまいには心になにも浮かばなくなります。
この状態を昔の人は悟りを開くと言いました。
そうすると、今に集中してより善く生きていくことができるようになるのです。